心のコンディショニングに効くSNSとのつきあい方
「たまにはSNS断ち」「利用時間制限」でスッキリ
総務省の「平成29年版 情報通信白書」によると、FacebookやLINE、Twitterなど6つのSNS(Social Networking Service)のいずれかを利用している人の割合は2012年の41.4%から2016年には71.2%に上昇。スマートフォン(スマホ)の普及に伴いSNSの利用者が急増したとみられます。スマホもSNSも多くの人にとって今やあたり前の存在、欠かせない存在ではありますが、これらの使いすぎが心のコンディションや対人関係に好ましくない影響を与える場合もあるようです。
「他者との比較」がストレスのもと?
152人の学生を対象にFacebookの利用時間とうつ症状の関連を調べたところ、Facebookの利用時間が長いほどうつになりやすいという結果が出ました*1。特に他者の書き込みと自分の置かれている状況を比べることが多いほど、その傾向が強まるとか。
他者の書き込みを見て「いいな、うらやましいな。それに比べて自分は......」と思う経験の積み重ねが心にダメージを与えるというのは想像できますが、興味深いことに他者の書き込みに対して優越感を抱いたとしても心に悪影響があったそうです。「自分と他者を比較する行為が続くのは幸福度の低下につながる可能性がある」とこの研究を行った米国ヒューストン大学の研究者は述べています。
「いいね!」をたくさんつけるほど幸福感が下る?!
5208人の学生を対象に、Facebookの利用状況と心身の健康状態などの関連を3年間にわたり追跡調査した研究では、他者の書き込みに共感するときなどに行う「いいね!」をつける回数が多いほど主観的な幸福感や健康度、人生の満足度が低いという関連がみられました*2。
幸福度がもともと低くてFacebookにのめり込んでしまったという可能性も考えられますが、前述の研究同様、他者との比較の機会が増えてしまった影響もありそうです。
1週間のSNS断ちでストレスが軽減
SNSの使いすぎで心身が疲れてしまう「SNS疲れ」という言葉をよく耳にするようになったのも、うなずけるところです。思いあたる人は短期間のSNS断ちを試してみてはいかがでしょうか。1週間 Facebookへのアクセスを中止したらストレスが軽減したという研究報告が出ています*3。
Facebookを利用する555人の学生を2つに分け、片方にだけFacebookの利用を1週間中止させました。1週間の中止を守れたのは61.8%で、4~6日守れたのは24.0%でした。通常のSNSの利用時間が1日2時間以内程度の標準的ユーザーと同4~5時間のヘビーユーザーにわけて分析したところ、特にヘビーユーザーでストレス度が大幅に改善しました(グラフ)。なおこの研究では学業成績への影響も調べていますが、SNS断ちによって成績が向上するようなことはなかったそうです。
【グラフ】ヘビーユーザーほどSNS断ちによるストレス軽減効果大
(Psychiatry Res. 2018 Dec;270:947-953)
SNS利用時間1日30分以内でメンタル改善
学生143人を対象とし、Facebook、Snapchat、Instagramの3つのSNSの利用を1日10分以内にするように指示した人たちと指示しなかった人たちでメンタル状態を比較した研究もあります。3週間後、不安感や孤独感、うつ症状などの変化を調べたところSNSの利用時間を制限した人たちで有意な改善がみられ、特にもともとうつ傾向があった人に効果的でした*4。
この研究ではスマホの機能を用いて実際のSNSの利用時間とメンタルの関係も調べているのですが、SNSの利用時間を1日30分以下に減らせばメンタルは改善すると分析しています。
食卓にスマホを置くだけで食事が楽しくなくなる
SNSの利用に限らず、四六時中スマホが視野にある生活は少し見直した方がいいのかもしれません。19~64歳の304人を対象に、食事中のスマホの利用と対人関係の関連を調べた研究報告を紹介しましょう*5。3~5人の友だちや家族との食事中、食卓にスマホを置いて食事をする人たちとスマホを置かずに食事をする人たちに分け、調査票を用いて食後の感想を分析したところ、食卓にスマホを置くだけで「食事をあまり楽しめない、つまらない」「気が散る」という声が有意に多くなりました。
いつでもどこでもコミュニケーションが可能になったのは便利でありがたいですが、使いすぎには注意したいものです。
*1 J Soc Clin Psychol. 2014;33(8):701-731
*2 Am J Epidemiol. 2017 Feb 1;185(3):203-211
*3 Psychiatry Res. 2018 Dec;270:947-953
*4 J Soc Clin Psychol. 2018;37(10):751-768
*5 J Exp Soc Psychol. 2018 Sep;78:233-239
マラソン金メダリスト野口みずきさん×コンディショニング研究会杉田正明代表