コンディショニング研究会

カラダのコンディショニングとは?
知っているようで奥深い”コンディショニング”について
分かりやすく解説します。

Q. 運動時、水分はできるだけ多くとったほうがいい?

コンディショニングテスト夏編

Aのどの渇きを目安にして

今40~60代の人の中には、子どものころ「運動中は水を飲むな!」と指導された経験がある人も多いのでは? 確かに当時は「運動中に水を飲むと汗をかきすぎて疲れやすい」「覇気が下がる」といった理由から、運動中は水を飲まないほうがいい、というのが通説だったようです。しかしこれには確かな科学的根拠はなく、今ではまるで逆、「運動中は積極的に水分補給を」という声が大勢を占めています。しかしこれもまた必ずしも正しいとは言えないようです。

運動時はどのような水分補給が望ましいかというのは、コンディショニングという観点からも非常に重要な問題です。たとえば、マラソンや駅伝大会などで、足元はフラフラで意識がもうろうとしているランナーがいると、多くの人は脱水が原因と考えるのではないでしょうか。しかし同じような症状が、水の飲みすぎによる「運動性低ナトリウム血症」でも起こりうることは、あまり知られていません。

運動中の水分補給は、少なすぎも、多すぎも良くない。

運動中の水分補給は、少なすぎも、多すぎも良くない。
  • のどの渇きが目安になる

のどの渇きが目安になる運動性低ナトリウム血症とは、大量の水分摂取によって血液中のナトリウム濃度が急に下がった状態を指します。めまいやふらつき、吐き気、むくみなどの症状が生じ、重症の場合はけいれんや昏睡状態となり、死に至ることもあります。

では何を目安に水分補給を行えばよいのでしょうか。スポーツ医学の専門誌に掲載されたガイドライン※1では「過剰な水分補給による低ナトリウム血症と過度の脱水の両方を回避するには、のどの渇きという人体に備わるメカニズムを利用するとよい」とあり、運動時の水分補給はのどが渇いてから行うことを推奨しています。


  • 「小柄で初心者」が危ない?

また、体格がいい人と小柄な人では、必要な水分量も違ってきます。日本のランニング学会は、「マラソンレース中の適切な水分補給について」と題する見解※2の中で、「体重が軽くレース時間が長くなる初心者ランナーでは、なおのこと注意が必要です。初心者ランナーはトップランナーほど汗をかかないにもかかわらず、『水をできるだけ飲んだほうがよい』という勧告を律儀に守っていけば、過剰摂取にならざるをえない」と述べています。


  • 運動による体重減少は2%までに

過不足のない水分補給の目安になるのが体重です。可能であれば運動前後に体重を測りましょう。失われた水分量を知ることができます。日本体育協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」では、運動による体重減少が体重の2%を超えないような水分補給が望ましいとしています。体重が50kgの人なら49kgを切らないように気をつけなくてはなりません。それ以上減ってしまうとパフォーマンスの低下にもつながるようです。


  • ナトリウムの補給も必要

汗と一緒に失われるナトリウムの補給も必要です。一般的には0.1~0.2%の食塩を含む水がすすめられます(注)。市販のスポーツ飲料であれば、おおむねこの範囲内に調整してあります。真水よりもナトリウムが入ったスポーツ飲料のほうが低ナトリウム血症による筋肉のけいれん(熱けいれん)の予防効果が期待できるという報告も出ています※3

スポーツ飲料には一定の糖分も含まれます。糖分があるほうが体内に水分が保持されやすく※4、長時間運動する場合のエネルギー補給という観点からも有効と考えられます。しかし、スポーツ飲料の甘さが気になって飲みにくいという人もいるでしょう。前述のランニング学会の見解では、味がよく飲みやすいものをのどの渇きと相談しながら補給することをすすめています。


  • 運動中ではなく、日常生活での熱中症対策ならこまめに

では、日常生活における熱中症を防ぐための水分補給法は? 環境省の「熱中症環境保健マニュアル2014」では、こまめな水分補給をすすめています。この場合、何をとったらいいのでしょうか? スポーツ時の水分補給同様、スポーツ飲料を利用するのも便利ですが、市販のスポーツ飲料は、多くが3~6%の糖分を含むため、とり方に少し気をつける必要があります。

6%が糖分ということは、500mlのペットボトル1本でとれる糖分は約30g、スティックシュガー10本分に相当します。運動時以外にスポーツ飲料を飲む場合は、糖分のとりすぎにならないような注意が必要です。


  • 「渇きを感じにくい」高齢者は特に要注意

「のどの渇き」は水分補給が必要か否かの大きな目安となりますが、熱中症を起こしやすい暑い時期、特に高齢者では少々話が違ってきます。熱中症で救急搬送される人の約半分は65歳以上の高齢者。※5若年者では運動中や仕事中の発症が多い一方、高齢者では日常生活の中での発症が多く、重症者の割合が高いことが知られます。※6


  • 高齢になると日常生活での熱中症の発症が増える

高齢になると日常生活での熱中症の発症が増える

2012年の7~9月の3カ月間に全国103の救急医療施設から熱中症の診断で受診した2130例を分析。(日救急医会誌 2014;25:846-62)

加齢とともに外気温への感受性が鈍化するとともに、体温の調節能力が低下します。体内の水分量が少なくなるうえ、のどの渇きを感じにくく、水分代謝の要となる腎機能の低下も見られます。「のどの渇き」を指標にしていては、脱水を起こしてしまうことになりかねないのです。

高齢者の熱中症対策として、環境省の「熱中症環境保健マニュアル2014」では、「のどが渇かなくても水分補給」をすすめています。

まとめ

運動中の水分補給は、のどの渇きを目安に。
スポーツ飲料で運動時の筋肉のけいれん(熱けいれん)の予防を。
※ただし糖分のとりすぎに注意
高齢者の熱中症対策は、のどが渇く前に飲む。

(注)1ℓの水に1~2gの食塩を入れると0.1~0.2%の食塩水になる。含まれるナトリウムの量は、0.1%で100mlあたり約40㎎、0.2%で同80㎎。

※1 Clin J Sport Med. 2015 Jul;25(4):303-20 ※2 ランニング学研究 2010;22(1),1-12※3 Sports Med. 2007;37(4-5):368-70 ※4 J Appl Physiol (1985). 2010 Feb;108(2):245-50 ※5 平成 28 年の熱中症による救急搬送状況 総務省消防庁 ※6 日救急医会誌 2014;25:846-62

次回8/28更新予定 [杉田正明先生インタビュー 後編]おすすめコンディショニングTips