コンディショニング研究会

カラダのコンディショニングとは?
知っているようで奥深い”コンディショニング”について
分かりやすく解説します。

Jリーグ川崎フロンターレ中村憲剛選手×コンディショニング研究会杉田正明代表
高地開催されたサッカー国際大会でベスト16入り
日本代表チームを支えたコンディショニングとは?

コンディショニング・スペシャル対談 Vol.1(前編)Jリーグ川崎フロンターレ中村憲剛選手×コンディショニング研究会杉田正明代表

川崎フロンターレ中村憲剛選手
プロサッカー選手
中村 憲剛 (なかむら けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。2003年、中央大学からJリーグ川崎フロンターレに入団。ポジションはミッドフィールダー。2016年シーズンにはJリーグ最優秀選手賞を受賞。

各界で活躍するプロフェッショナルとコンディショニング研究会アンバサダーがコンディショニング術を語るスペシャル対談が始まります。初回となる今回は、プロサッカー選手として第一線で活躍するJリーグ川崎フロンターレの中村憲剛選手と本研究会の杉田正明代表。ベスト16入りした2010年の国際大会で日本代表メンバーだった中村選手と、高地での戦いに備えるためのコンディショニングの専門家として同大会に帯同した杉田代表が当時を振り返ります。



日本サッカー界初の試みとして、入念な高地対策を実施

――二人の出会いは大会直前の埼玉での準備合宿だった。

中村選手

杉田:2010年のこの大会は南アフリカでの開催で、半数以上の会場が標高1300~1750mにあるスタジアム。日本代表が経験する初の高地での大会のため、高地に順応するためのコンディショニングが大切ということで、開催の約4カ月前、2月に当時の監督から直接要請を受けて、高地トレーニングの専門家として日本代表に帯同することになりました。

中村:5月の埼玉での準備合宿で「はじめまして」という感じでしたよね。監督から「高地トレーニングのコンディショニングを担当するスペシャリストを連れてきた」と、杉田先生が紹介されて。

杉田:その前にトレーナーから選手のみんなに配ってもらった低酸素マスク(を使った低酸素吸入プログラム)、やった?

中村:俺はやりましたよ、まじめに(笑)。マスクで低酸素(動脈血酸素飽和度が74~84%になる。正常値は96%以上)を吸うのと普通の呼吸を繰り返す1回1時間のプログラムを、合計7回でしたっけ。すっごくきつかったけど、少しでも早く高地に順応するために必要で、これやらないと高地では動けないよってトレーナーに言われていたから、もう必死に。

杉田:なぜこれが必要かって細かく書いた説明書を配ったから、みんな納得してやってくれたのかな。大会期間中もやってもらったよね。心配だった高地での第1戦、第3戦、決勝トーナメント1回戦での動脈血酸素飽和度は、ほとんどの選手が97~98%になっていて安心しました。

中村:低酸素マスクのほか、毎朝の尿検査、睡眠の様子や疲労感などを書くコンディション記録用紙をつけたり。自分のコンディションを把握するために大切だからって言われていたから、ちゃんと。何せ大会前の成績が悪かったですからね。トレーニングマッチで3連敗したあと、本大会直前のジンバブエとの練習試合は引き分けで本大会に突入。練習はもちろんだけど、それ以外の細かなことまでしっかりやっていかないとダメだという雰囲気がありました。ましてや高地での戦いですから。普段から高地で戦っている選手はいないから、そこがカギになるって監督も言っていました。本大会で3連敗して帰れないというプライドもありましたし。体の内側もしっかり調整して臨む。今できる最善の準備をしようと、選手もスタッフもみんなが同じ方向を向いていましたね。

2010年開催の国際大会 日本代表のスケジュール、対戦成績など

2010年開催の国際大会 日本代表のスケジュール、対戦成績など

尿検査で疲労レベルを把握。監督判断で試合3日前に完全オフ

――選手のコンディションは、具体的にどのよう把握していたか。

杉田正明代表

杉田:たとえば尿検査(たんぱく、糖、pH、白血球、クレアチニン、比重など)の結果をほぼ毎日みていると、それぞれの選手の傾向が見えてきます。とはいえ数字の一人歩きは避けたいから、トレーナーやドクターと話をして、コンディショニング記録用紙を参考に選手の主観も大事にしつつ、やはり、こういうデータが出たら疲れているのではないか、という選手個々人の法則性をみつけていったという感じです。

中村:選手の疲労は数値化できませんからね。もちろん尿だけで判断するのは危ないけれど目安みたいのものがわかって。主観に頼り過ぎてもいけないし数字ばかり気にするのもよくない。そのあたりうまくコントロールできたのではないかなと思います。

杉田:初戦のカメルーン戦の3日前は、完全休養日にしてもらったんだよね。

中村:選手が疲労困憊しているから休ませてくれって杉田先生が監督に言ったと聞きました。連戦ならまだしも初戦の直前に完全オフというのは正直あまり聞いたことも体験したこともなかったので本当に大丈夫?と思っていました。

杉田:陸上の世界ではレースの3日、4日前の完全休養はわりと一般的です。疲労を抜いて充電させるという考え方で。でもサッカーは戦術練習などが必要だし、それをやらないで休んでいいのか?という感じだったでしょう。監督は尿検査の結果含め、あらゆる情報をもとに選手のコンディションを的確にとらえて、勝つための英断をしてくれたんだと思います。


初戦の勝利でムード一転。「杉田先生のおかげで勝ったよ!」に涙

――杉田代表のような、いわば外部の専門家の帯同は特例なことだったとか。

中村選手と杉田正明代表

中村:特例中の特例だと思います。勝つためにできるすべてのことをやり切るという監督の考え方が出ていました。

杉田:監督はすごかった。普通こんなヨソの人連れていかないよ(笑)。選手のみなさんもとても協力的で。カメルーン戦で勝ったとき、中村選手が「先生のおかげで勝ったよ!」と言ってくれて、すごくうれしくて涙が出たよ。

中村:いや本当にそう思ったから自然に口から出た言葉です。事前準備からスイスでの合宿、そして南アフリカに行ってからも、選手が初戦でベストを出せるように尽力されていましたから。監督やコーチも、それぞれの選手の状態をみて練習メニューを変更するといったコントロールがしやすかったんじゃないかな。

杉田先生へ 高地対策大成功!

杉田:初戦の前の日くらいから「雰囲気いいよね、いけるんじゃないの?」って他のスタッフと話していたんだよ。

中村:コンディショニングがうまくいってなかったら間違いなく勝ててなかったと思うし、そのあとも引きずっていたかもしれません。

杉田:サッカーは相手がいて戦術もあるから単純な比較はできないけれど、1試合あたりの走行距離はグループリーグ3試合で32チーム中2位だったしね。

中村:初戦で勝ってチームの雰囲気も劇的によくなりました。それを支えてくれたのが杉田先生やトレーナー、ドクターといったスタッフたち、みんなで勝ったんだと思います。

杉田:選手23人全員のサイン入りで「杉田先生へ 高地対策大成功!」と書かれたカメルーン戦の14番中村選手のユニホームは私の宝物です。

――対談の後編では中村選手のコンディショニング術に迫ります。



* 血液中の酸素と結合したヘモグロビンの量。血液中の酸素量の目安となる。

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